猫背の男

 僕の住む街には、ちょっとした丘があり、丘の上にはちょっとした公園があります。
 その公園には、街の人なら大抵の人は、見たことはなくても噂には聞いたことがある、ってくらい有名な、〝猫背の男〟がいます。
 毎日、毎日、朝から晩まで、夜中にも見たという人がいますから、男は毎日毎日、一日中、その丘の上の公園にいるようです。
 いつも同じベンチに座って、何処を見ているのか分からぬ目で、町を見下ろしたり、遠く空の向こうを見ているようでもあり。 
 地元の人たちは、みんな噂します。
 
 「オカシナ人、イツモ何ヤッテルノカシラネェ」
 「毎日毎日、仕事モシナイデ一日中」
 「変ナ奴ダ。アアナッテハオ終イダナ」

 みんな、猫背の男を変人呼ばわり。
 近付こうとする人は誰もいません。
 猫背の男はいつも独りです。

 

 

 丘の上の公園、いつも同じベンチに座り。


 猫背の男は、思う。

 「画の様な無機質な街も、此の世の真理も、
  感傷する程の事ではない。
  唯、譬えば、
  皆が「美味しい」と言うものを不味いと感じたり、
  皆が「汚い」と言うものを奇麗と思ったり、
  皆が「青」と言うものが赤に見えたり。
  皆と同じ事を見ても、皆と違うように感じたり、
  皆と同じ事を聞いても、皆と違うように思ったり、
  皆と同じ事に触れても、皆と違うように理解したり。
  皆が「どうでもいい」と言う事を考え、
  皆が喋る事が如何でもよかったり。

  物事や、事物。 此の世界の総ての事象。
  一体俺は、どれだけの意味を共有できているのか。

  皆に触れると、己が違うのを知る。
  また独りを知る。
  もう、人に触れるのはやめよう。」

 

 丘の上の公園、猫背の男は独り、いつも同じベンチに座り。