遁世兄
僕には、引き篭もりの兄がいます。
兄が自部屋に引き篭るようになって、もう十二年が経ちます。
昔はよく、二人でキャッチボールをしたり、魚釣りに行ったり、面倒見のいい、と
ても優しい兄でした。
そんな兄が、十七歳の時、修学旅行から帰るなり、自部屋へ篭る前に僕に言った事
を、今でもたまに思い出すんです。
「見てしまった・・・・飛行機の中から、見てしまった・・・ 雲の上に人型
のネコがいっぱいいて、細い糸ですべてを操っていたんだ・・・。 人は誰でも
「自分の意思で動いてる」って思ってるけど、「自分でこう考えてる」って信じ
てるけど・・・実際はそうじゃない・・・誰も、自分の意思で動いてる人間はい
ない・・・考えさえも自分のものぢゃナイ・・・証拠にホラ、オマエノその考え
はオマエガ選んだものか?そう考えようとして考えているのか?好キ嫌イは?捉
エ方は?解釈ノ癖は?感ジ方は?オマエはまだ中学生だからワカンナイかなァ・
・・・すべて!すべては雲の上の人型ネコたちが操ってイテ・・・ダカラ、だか
らみんな悪くないンだ・・・・こんなにダメなオレも悪くないンだだって操られ
テイルんだかラ人型のネコたちニ。
オレはもう降りるよ・・・ こんな世界だって世界は、とんでもない茶番劇なん
だ・・・ 」