2023-04-01から1ヶ月間の記事一覧

遁世兄

僕には、引き篭もりの兄がいます。 兄が自部屋に引き篭るようになって、もう十二年が経ちます。 昔はよく、二人でキャッチボールをしたり、魚釣りに行ったり、面倒見のいい、と ても優しい兄でした。 そんな兄が、十七歳の時、修学旅行から帰るなり、自部屋…

実況中継

実況中継! 私は今、小原中学校の夜の校舎前に居ます。屋上を見上げると、ひとりの少年。学生服を着た少年です。 正に今、飛び降りようとしています! 誰か、彼を助けてあげて下さい。 誰か! ・・・・残念、誰も彼に興味が無い。 そして僕は売れっ子レポー…

走る男

高校生の時の事です。 その日もいつもの様に、仲のいい友人と二人で下校していました。 すると友人は急に立ち止まり、何事かを呟き、突然、物凄い勢いで走り出してしまったのです。 ・・・その友人は、未だ行方の分らない侭です。 きっと、今も、 走る、走る…

労働男

僕の知人に、異常なくらい働く男がいます。 その男は懸命に働く。懸命に、倒れるまで、意識を失うまで、働く。 そこである時聞いてみました。 「何故そんなに働くんですか!?何故そんなになるまで働くんですか!?」 「罪滅ぼしです。 親不孝の罪滅ぼしです。 …

鬼と侍

図書館の児童絵本コーナーで、変な絵本を見つけました。 『鬼と侍』 世界の果てで、 冷たい風を間に、向い合う、鬼と侍。 鬼は、今にも襲い繋りそう。 侍は、今にも斬り繋りそう。 鬼の目は、色を映さない醒めた眼で、侍と世界を見ている。 侍の目は、意味を…

Newマッスィーン    ざんす

時は二十三世紀、世界は、最高に合理的な社会になっていた。 「社長! ついに完成しましたよNewマッスィーン! これぞ、長年かけて作り上げた『営業マシーン』です! 〝営業〟に関しては人より何十倍も優れた、〝営業〟だけに特化した マシーンです。 我が社…

逃げろ

バリ封した屋上に引き篭もり男は、思うのです。 「 何かが 起こっている 何かが 変わろうとしている 革命は 希望 何かが起こる 何かが変わる 世界が変わる 革命は 幻想 幻想に捕われた人々の末路は 絶望 そして ドっ白け 空虚に憑かれる

エレファントマン

知人、というわけでもないんですが、生まれつき頭と右腕が象のように大きく、醜さ故に母親からも愛されず捨てられた男がいました。醜い男は、誰からも愛されない、死ぬまで。 友人たちとよく話したものです。 「生まれてから死ぬまで、誰からも愛されないっ…

秘密話

これは、ここだけの話なのですが・・・。 眠くなるよな、四月の昼下がり。縁側の猫を隣に、 「このネコは、いったい何を考えているんだろーねー」 ばかだなーキミは。猫なんだから、何も考えてるわけない。言葉をもた ないのに、ものを考えてるわけない。 そ…

ハルオ

高校の時のクラスメイトに、暗くて全く目立たないというか全く存在感の無い〝ハルオ〟というやつがいました。 先天性潜在的不幸願望症候群のハルオはいつも一人だった。 一人で登校し、教室では一日中誰とも話さず寝てばかり。そして一人で下校する。特に何…

昔の友人

昔、こんな友人がいました。 うつろな目をした少年で、彼は人と接するのを避けていました。部屋に引き篭もり、たまに町を歩く時も下を見て。ただ想うのは、 冬の海、曇り空、真夜中街灯の下の猫 朝の雨、雨の夜、夕方の空の中の自分。 ぐるぐるぐるぐる・・…

嘔吐

およそ20年の歳月、純粋な少年を私の中の檻に閉じ込め、遂には死んだと思っていたが。まだ其処に生きて、居たんだな。 長の年月を経て、檻から少年が漏れ出している。なんとかうまく誤魔化してやってきただけだった。か。 少年の眼で見るこの世界は、相も変…

目的

「いやぁ~、ついに完成しちゃったなー。 一生、脳の所謂幸福中枢をコントロールし続ける事のできる生命維持カプセル・・・。 多幸感と中枢神経系の関係と仕組が完全に解明されてから、40年も経っちゃったよ・・・。」 「博士、ついに完成しましたね・・・…

裁判 (罰)

「〝虚無地獄〟人生80年の刑ね」 「いやムリ」 そして、僕は彼と出会った。 「あっしはねぇ、遠い過去に決して赦されない罪を犯したんです。 これは、罰なんです。 〝一生この自分を生きる〟、罰なんです。 お兄さん、あんたはまだお若い。 そんな冷めた眼は…

裁判 (罪)

う~ん、・・・。 おもしろい裁判記録を発見してしまいました。 そしておもしろい出会いがありました・・・。 異議あり!「円間裁判長、私が彼女を殺す事は、138億年前から既に決まっていた事なのです。 私の脳内での神経細胞に於ける活動電位、ニューロン発…

サイコロ男

僕の友人に、全てサイコロで決める男がいます。 全てを儚げな眼差しで、「俺は一生黙っていよう」と、言葉を宙に燃やして捨てる。そうして男は、丘の上から、空っぽの町を見下ろしています。 いつも一人で。 男は何も喋りません。死ぬまで言葉を喋らない。 …