昔の友人
昔、こんな友人がいました。
うつろな目をした少年で、彼は人と接するのを避けていました。部屋に引き篭もり、たまに町を歩く時も下を見て。ただ想うのは、
冬の海、曇り空、真夜中街灯の下の猫
朝の雨、雨の夜、夕方の空の中の自分。
ぐるぐるぐるぐる・・・ 眠れない
ぐるぐるぐるぐる・・・
頭の中で蟲が動き始めた、夜中過ぎ。
少年は走る。みんな寝静まった真夜中を。
走って走って走って走って・・・・ 走って
それはもうとんでもない所まで。
そして少年は呟く。
「そうだ、空の一部を四角で切り取り、我が部屋の壁に貼ろう。」
虚ろな目をした老人、夕方の中一人散歩する。
公園、ベンチに座り、空を見つめる。
「空の一部を四角で切り取り、我が部屋の壁に貼ろう」。
嘔吐
およそ20年の歳月、純粋な少年を私の中の檻に閉じ込め、遂には死んだと思っていたが。
まだ其処に生きて、居たんだな。
長の年月を経て、檻から少年が漏れ出している。
なんとかうまく誤魔化してやってきただけだった。か。
少年の眼で見るこの世界は、相も変わらず胡散臭すぎる。嘘くさすぎる。
決まった同じ時間に起き、決まった同じ時間に食い、決まった同じ時間に決まった同じ道で決まった同じ処へ行き、決まった同じ事をしたり、
面白くもないのに笑ってみたり、嫌い合ってるのに笑顔作ってみたり、適当に話を合わせてみたり・・・思ってもない、心にも無い事を言ってみたり。
「キモチワルイ。」
滑稽に見えるか? あほらしいと思うか? 無意味だと感じるか?
遣る瀬無いか、遣り切れないか。
ソコのアナタ、心を殺して生きる気分はどうですか?
目的
「いやぁ~、ついに完成しちゃったなー。
一生、脳の所謂幸福中枢をコントロールし続ける事のできる生命維持カプセル・・・。
多幸感と中枢神経系の関係と仕組が完全に解明されてから、40年も経っちゃったよ・・・。」
「博士、ついに完成しましたね・・・。
誕生以来、人類は実に多くの物を創ってきました。
特に科学技術の止まるところのない進歩により、今や必需品は言わずもがな、更なる利便性や快適さや快楽の為の物が際限なく作られ無数に散在します。
結局人は自己の快を追求する、快楽原則からは逸脱できないのです。現実原則も結局は自己の幸福の為であり、自己のより幸福な状態を模索追求する、言わば〝幸福原則〟から逸脱できないのです。常に無数にある選択肢からとる行動の根本動機はすべて、幸福追求原則に帰納し包括されているのです。
そのような観点から、この「一生、幸福中枢をコントロールし続け多幸感を持続した儘でいることのできる生命維持カプセル」は、正に、人類が追い求めてきた究極のマシーン、理想の極致なのです!
人類誕生以来初めて、全人類が幸せになれるのです!!
至福千年王国の実現です!!!」
「じゃ、キミ、早速・・・」
「 ・・・え? ボクですか?」
「え? 何?」
「え? いやいやいや (笑 」
「いやいやいや (笑 」
「・・・・・」
「・・・・・」
裁判 (罪)
う~ん、・・・。 おもしろい裁判記録を発見してしまいました。
そしておもしろい出会いがありました・・・。
異議あり!
「円間裁判長、私が彼女を殺す事は、138億年前から既に決まっていた事なのです。
私の脳内での神経細胞に於ける活動電位、ニューロン発火の仕方に依って、私は彼女を殺すという行為に至った訳です。
そして私の脳は、DNA中の遺伝子が基となって外部環境と相互に作用し合いながら作られたものです。
すべては、物理運動の連鎖、因果律の侭なのです。
すべては、所謂ビッグバンから初まった、不確定性原理も含む物質の運動の連鎖の結果なのです。
私が今こうして話している事もすべて物理運動の結果であり過程であるのです。ビッグバンの生んだ力と物質の連鎖は今もこうして無限に連鎖しているのです! さあ! 「無罪」とお言いなさい! いやちょっと待ちなさい!
最後にこれも問いましょう。
所謂『神』の様な観測不可能な、認知できない、理解の及ばない力を信じず、けれども理解は及ばずとも『科学』を信じるあなた方が、この真理を受け入れないとは言わせない。
まさか〝自由意志〟なんてものが、物理法則から逸脱できない物質としての肉体や脳から独立して存在するなんて思っているのではないでしょうね。ハハハ。それウケる。ハハハハハ笑止!それこそ、〝形而上的な力の存在〟を暗に認めると云う事ではないですか。それを否定する以上、自由意志なんてものは脳の物理現象の副次的な所産に過ぎない、という真理に異を唱えるのは矛盾している! 依って責任の所在は? 私には無く? 私は? はい私は? 無ざ? はい無ざ・・? さあ! 「無罪」とお言いなさい!」
「いや有罪だから」
「いやムリだから」
サイコロ男
僕の友人に、全てサイコロで決める男がいます。
全てを儚げな眼差しで、「俺は一生黙っていよう」と、
言葉を宙に燃やして捨てる。
そうして男は、丘の上から、空っぽの町を見下ろしています。
いつも一人で。
男は何も喋りません。死ぬまで言葉を喋らない。
みんな言っています、
「だから彼には近付くな。誰も彼には近寄るな。せめてそっとしておいてやれ。」
僕にはわかりません。僕には何も、わかりません。
心にもない事は口にできない。
「せめて、灰になった無数の言葉を、凍った世界に降らせよう。」
全てサイコロで決める男。彼は無口に笑っている。
全てを悟ったような笑みで、「俺は一生黙っていよう」と、
「意味など無い」と言葉を燃やす。
そうして男は、丘の上から、見下ろしています。
「絵画の世界」。
全て閉じ込めた、絵の中の世界。
男は何も喋らない。「語らうことなど何も無い」。
俺にはわからない。俺には何もわからない。自分の姿もわからない。
「せめて、灰になった、死んだ言葉たちを、
世界に降らせよう。」