労働男

 僕の知人に、異常なくらい働く男がいます。
 その男は懸命に働く。懸命に、倒れるまで、意識を失うまで、働く。
 そこである時聞いてみました。

 

 「何故そんなに働くんですか!?何故そんなになるまで働くんですか!?」

 

 

 「罪滅ぼしです。
  親不孝の罪滅ぼしです。
  人生を無駄にした罪滅ぼしです。
  生まれてきた罪滅ぼしです。」

 

 

 

鬼と侍

図書館の児童絵本コーナーで、変な絵本を見つけました。

 

 

 

   『鬼と侍』

 

 

  世界の果てで、
  冷たい風を間に、向い合う、鬼と侍。

 

  鬼は、今にも襲い繋りそう。
  侍は、今にも斬り繋りそう。

 

  鬼の目は、色を映さない醒めた眼で、侍と世界を見ている。
  侍の目は、意味を映さない空虚な眼で、鬼と世界を見ている。

 

 

  鬼は、 思う。
  「ああ。 コイツは独りなんだな」

 

  侍は、 思う。
  「ああ。 こいつも独りなんだな」

 

 

  世界の果てで、
  冷たい風を間に、向い合う、鬼と侍。

 

  鬼は、初めて色を見た。
  侍は、初めて意味を得た。

 

 

 

 

Newマッスィーン    ざんす

時は二十三世紀、世界は、最高に合理的な社会になっていた。

 

 「社長! ついに完成しましたよNewマッスィーン!
  これぞ、長年かけて作り上げた『営業マシーン』です!
  〝営業〟に関しては人より何十倍も優れた、〝営業〟だけに特化した
 マシーンです。
  我が社はこれまでに、『接客マシーン』『建設マシーン』『経理マシーン』
 『事務処理マシーン』『配送マシーン』、多くの国の『調理マシーン』、種々
 様々の作物の『農作業マシーン』、種々様々の物の『製造マシーン』その
 他諸々・・・、
  と、多くの「それだけに特化した専門マシーン」を作ってきました。
  いやぁ~、合理的ですよこりゃ。」

 「ほう! こりゃよくできてるざんす。 材料は何ざんす?」

 「材料は人間ですよ。」

 「ほう! で製造方法は? ざんす。」

 「教育です!」

 「ほう! ざんす。」

 「ははははは!」

 「ははははは!
  今夜はパーッとヤルざんす!」

 

                                 

逃げろ

 バリ封した屋上に引き篭もり男は、思うのです。

 


 何かが 起こっている
 何かが 変わろうとしている

 革命は 希望


 何かが起こる 何かが変わる
 世界が変わる

 革命は 幻想


 幻想に捕われた人々の末路は 絶望

 そして ドっ白け

 
 空虚に憑かれる

 

 

 

エレファントマン

 知人、というわけでもないんですが、生まれつき頭と右腕が象のように大きく、醜さ故に母親からも愛されず捨てられた男がいました。醜い男は、誰からも愛されない、死ぬまで。
 友人たちとよく話したものです。

 

 「生まれてから死ぬまで、誰からも愛されないっていうのは、いったい
 どんなだろうねぇ 

  さァ、どんなだろうねェ」

 

 生まれつき、象のような頭と右腕。醜い男は、生まれてから死ぬまで、誰からも愛されない。

 

 「お母さん、
  僕がこんなに醜くなければ、少しくらい僕を愛してくれたでしょうか。
  僕がこんなに醜いばかりに。
  お母さんすいません、生まれてどーも、ごめんなさい。」

 

 

 ああ! 醜い男、笑ったことがない。
 ああ! 醜い男、なんという神の気紛れ。
 ああ! 正に今、命尽きる、
 見世物小屋で過ごした、十七年間を思い。

 

 

 

秘密話

これは、ここだけの話なのですが・・・。

 

 

 眠くなるよな、四月の昼下がり。縁側の猫を隣に、

 「このネコは、いったい何を考えているんだろーねー」

  ばかだなーキミは。猫なんだから、何も考えてるわけない。言葉をもた
 ないのに、ものを考えてるわけない。


 そんな二人を横目に、小さな舌見せてあくびする猫。
 全て、大した事ないというふうに。
 だって、猫は知っている。


 満月の夜、猫たちは集まる。湖のある森で、猫たちのパーティー
 すべて、たいしたことないというふうに。
 すべて、なんでもないというふうに。

 だって、猫たちは知っている。此の世の真理を知っている。


 満月の夜、猫たちのパーティー

 全て、大したことじゃない。
 全て、なんでもない。

 退屈だった神様が、
 パチンと指を鳴らしただけ。
 パチンとスイッチ入れただけ。

 猫がこっそり僕にだけ、教えてくれた、本当のお話。

 

 

 

ハルオ

 高校の時のクラスメイトに、暗くて全く目立たないというか全く存在感の無い〝ハルオ〟というやつがいました。

 

 先天性潜在的不幸願望症候群のハルオはいつも一人だった。
 一人で登校し、教室では一日中誰とも話さず寝てばかり。そして一人で下校する。特に何をするというわけでもないのだが、速足で帰る。
 いつもブツブツと「つまんねえな・・・」と独り言。
 とにかくつまらなくてしょうがないのだ。
 世界の全てを知っているわけでもないのだが、世の中の全てがつまらなくてしょうがないのだ。
 学校も、くだらない同級生たちも、街も、人も、とにかくつまらなくてしょうがないのだ。
 いじめがいけないという前に、人殺しがいけないという前に、戦争がいけないという前に、
 「生まれてきたことが、いけないのだ。
  本当は全て意味なんか無いのに、無いのに、何故意識は在るんだ!
  それがそもそもの間違い、不条理、全ての不幸の始まりじゃないか!
  何がそんなに楽しいんだ! オマエ何がそんなに楽しいんだーー!
  オマエラ騙されてる。 オマエもおまえもオマエもおまえオマエ
  さあ! みんなで東の楽園にいこう! そこはとっても綺麗でステキな
 処でどんな夢も叶うというよ    行こーーう     いこーーーう  」

 

 「えー、お宅の息子さんは〝先天性潜在的不幸願望症候群〟という新種
 の病気です。一生幸せにはなれません。
  大丈夫ですよ、最近流行ってます。
  この病気が認められた人は自ら死を選ぶ権利が国から認められていま
 す。
  なんでしたらコチラで楽に死ねる薬を  ・・・」